メンタル不調に対して、医師は生活習慣の指導として、普段、睡眠衛生指導や運動指導を行っていますが、それと同様に食事・栄養指導は非常に大切です。栄養と精神の関係は未だ十分に解明されてはいないことが多く、エビデンスも十分に構築されていませんが、食事や栄養状態を改善することで心身の不調が軽減され、減薬につながることがあります。
精神医学とは、各種精神疾患に関する診断・予防・治療・研究を行う医学ですが、『栄養精神医学』とは、精神症状・身体症状・向精神薬に対する食事・栄養・腸管の影響を考える精神医学の一分野です。
食事や栄養の影響で精神症状がより重症化していたり、腸管の状態が経口薬の血中濃度に影響を与えていたり、腸内環境の悪化が精神症状に影響していたりすることがあります。
精神症状のある患者さんに対して、身体的要因のひとつである栄養学的要因を十分に考慮する必要があります。栄養学的要因により症状が遷延または難治化していたり、向精神薬の多剤の一因になったりする可能性があります。そのため、血液検査など必要な検査をきちんと行い、栄養学的な要因を考慮することで治療効果が高められることがあります。食事や栄養面での改善を行っても、腸管の状態が悪かったり、食欲がなかったりすると、栄養学的な治療はうまくいきません。そのような場合は、薬膳や漢方生薬も活用するとよいのではないでしょうか。
また、近年、精神科病院における入院患者の高齢化、それに伴う身体合併症予防が課題となっていますが、この点においても栄養精神医学は貢献できるでしょう。
栄養精神医学は、食事や栄養の観点から患者さんのレジリエンス(ストレス耐性+自己治癒力)の向上に貢献すること期待される分野といえます。
日本栄養精神医学研究会 奥平智之 作成
参考文献
1)奥平智之:栄養精神医学(1)貧血がなくても鉄不足でメンタル不調.精神看護(21)2:158-164,2018
2)奥平智之:栄養精神医学(2)鉄欠乏改善でレジリエンスの向上を!.精神看護(21)3:264-271,2018
Comments