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  • 執筆者の写真奥平智之

胃全摘後でも経口ビタミンB12投与は有用

更新日:2020年9月30日

胃がないと、ビタミンB12の吸収率は大きく低下してしまいます。そのため、ビタミンB12の筋肉注射が行われます。しかし、 経口でビタミンB12製剤を十分量投与するのもOKです。


ビタミンB12が欠乏すると、未熟で大きな赤血球がみられる貧血(巨赤芽球性貧血)になります。手足のしびれなどの神末梢神経障害を伴うことがあります。

 赤血球や神経細胞の合成にはビタミンB12が関与していますが、その吸収には胃壁細胞から分泌される「内因子」と呼ばれる糖タンパクを必要とします。しかし、胃全摘後の患者では内因子がないため、ビタミンB12の吸収不良を来し、貧血に至るのです。


《理由》

内因子に依存しないビタミンB12吸収の代替経路である『受動拡散』があります。内因子依存性経路の吸収率は60~80%に対して、この経路の吸収率はわずか約1%です。

さらに、内因子に依存しない経路は、通常の食物摂取で1〜2μgのビタミンB12の毎日の要件を満たすには不十分です。

しかし、経口ビタミンB12剤で十分量を投与すれば、吸収率は低くても、内因子非依存性経路によってビタミンB12の毎日の必要量を満たすことができます(Kim H, et al. Oral vitamin B12 replacement: an effective treatment for vitamin B12 deficiency after total gastrectomy in gastric cancer patients. Ann Surg Oncol 2011;18:3711-3717.)。

他にも、十二指腸と空腸における内因子の異所性産生によって吸収が補われている可能性も考えられます(Adachi S, et al. Enteral vitamin B12 supplements reverse postgastrectomy B12 deficiency. Ann Surg 2000;232:199-201.)。

《研究1》

ある研究では、胃全摘術を受けた胃癌患者を含むビタミンB12欠乏症(<200 pg / ml)の30名の患者に、ビタミンB12(1500μgのメコバラミン)を3か月間毎日経口投与しました。29人の患者はビタミンB12欠乏に関連した神経症状がありました。経口によるビタミンB12治療後、28人の患者が症状の緩和を経験し、16人の患者は症状が消失しました。

(Kim, H. I.,et al. Oral vitamin B12 replacement: an effective treatment for vitamin B12 deficiency after total gastrectomy in gastric cancer patients. Annals of surgical oncology, 2011; 18(13): 3711-3717. )

《研究2》

さらに長期に経過をみた研究もあります。

患者は毎日経口ビタミンB12(1 mg/日)を受け取り、3か月ごとに評価されました。対象は、平均年齢64歳(29-79歳)、胃全摘術後の平均期間65ヶ月の26人。平均追跡期間は20(8.5-28)ヶ月で、25/26人の患者で血清ビタミンB12濃度は正常でした(平均の血清ビタミンB12濃度:657pg / mL)。フォローアップ中、すべての患者のB12血中濃度は正常であり、筋肉内補給の必要はありませんでした。

Moleiro, J., et al. Efficacy of long-term oral vitamin B12 supplementation after total gastrectomy: results from a prospective study. GE-Portuguese Journal of Gastroenterology, 2018; 25(3): 117-122.

《鉄欠乏・葉酸欠乏にも注意》

術後に製剤のビタミンB12投与が行われなかった場合、体内貯蔵分が枯渇する術後4~5年目に貧血が発症する場合が多です。

 一方、鉄欠乏性貧血は、術後比較的早期に発症することが多いです。鉄の吸収障害は、鉄の吸収に必要な胃酸の減少が原因です。胃全摘症例では、葉酸や鉄の欠乏による貧血も併存する例は少なくなくありません。

《ビタミンB12欠乏による心血管系のリスク》

ビタミンB12はDNA合成と神経機能において重要な役割を果たしています。そのため、B12欠乏は、血液学的、神経学的、および精神医学的症状に関連しています。さらに、B12欠乏は、アテローム性動脈硬化症の独立した危険因子である高ホモシステイン血症に関連しているため、間接的に心血管疾患に関与する可能性があります(Nygard O, et al Plasma homocysteine levels and mortality in patients with coronary artery disease. N Engl J Med 1997;337:230-236.)。

《まとめ》胃全摘後の人でも、食事でなく経口でビタミンB12製剤を投与すれば、十分量が吸収されます。



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