胆汁酸って何でしょう?
肝臓でつくられて、十二指腸に分泌されますよね。
胆汁酸といえば、食事中の脂質や脂溶性ビタミン(ビタミンA/D/K/E)の吸収としての役割をまず思い浮かべると思います。
しかし、この20年で(1999~)、胆汁酸は、生体の調節分子「ホルモン」として、様々な大切な役割を果たしていることがわかっています。
さらに、過去数年で、胆汁酸は肝臓や胃腸管の細胞内のさまざまな「細胞シグナル伝達経路」を活性化することも発見されました。
★胆汁酸は、
①特定の核内受容体(ビタミンD受容体、ファルネソイドX受容体など)
②細胞膜受容体:Gタンパク質共役胆汁酸受容体(TGR5、特定のムスカリン受容体など)
③細胞シグナル伝達経路
に作用します。
これらは、主に、肝臓と消化管の細胞に存在します。
胆汁酸は、グルコース、脂肪酸、リポタンパク質合成、代謝、輸送、およびエネルギー代謝の調節に関与する酵素・多数の遺伝子の発現を変化させます。
Hylemon, P. B., et al. Bile acids as regulatory molecules. Journal of lipid research, 2009;50(8): 1509-1520.
実は、「ビタミンD受容体」にも作用します。
ビタミンD受容体は、二次胆汁酸リトコール酸の受容体としても機能します。
ビタミンD受容体の活性化は、肝臓および腸の二次胆汁酸リトコール酸を解毒するチトクロームP450酵素の発現を誘導します。
これらの研究は、ビタミンDとその受容体を介した大腸癌に対する保護効果を説明するかもしれません。
Makishima M., et al. Vitamin D receptor as an intestinal bile acid sensor. Science. 2002; 296: 1313–1316.
胆汁酸が作用する「TGR5 」(Transmembrane G protein-coupled Receptor 5)は、熱産生能のある組織で「甲状腺ホルモン」の作用を促進し、「血糖値」を低下させ、「エネルギー消費」を増加させます。
Fiorucci, S.,et al. Bile-acid-activated receptors: targeting TGR5 and farnesoid-X-receptor in lipid and glucose disorders. Trends in pharmacological sciences, 2009;30(11): 570-580.
食事をすると、胆汁酸が十二指腸に分泌されますが、胆汁酸により、甲状腺ホルモンに作用して代謝が活性化させたり、食事で血糖が上がる前に、インスリンの分泌を促して血糖を下げようとしたりします。
このTGR5 に、大腸に増えた胆汁酸が作用することにより、
①大腸の蠕動運動が促進したり、
②大腸内への水分の分泌を増やすのが、
便秘症のくすり「グーフィス」の機序です。
下剤としての「グーフィス」(回腸胆汁酸トランスポーター阻害剤)は、腸からの胆汁酸の再吸収を減らし、大腸に胆汁酸を増やすことで、便通を改善させます。
TGR5はいくつかの組織で発現しており、最も高いレベルが胆のうで検出され、次に回腸および結腸で検出されます。
また、回腸胆汁酸トランスポーター阻害は、総コレステロールと低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールの血漿レベルを用量依存的に減少させ、肝細胞での胆汁酸合成を増加させ、ステロールを胆汁酸合成経路に誘導し、コレステロール合成から遠ざけることにもつながります。
Simren M, et al: Randomised clinical trial: The ileal bile acid transporter inhibitor a3309 vs. Placebo in patients with chronic idiopathic constipation—a double-blind study. Alimentary pharmacology & therapeutics.2011; 34(1):41–50.
「免疫力」においても、胆汁酸は、関与しています。
胆汁酸は、TGR5の活性化を介して樹状細胞の分化を誘導できます。
樹状細胞は、抗原提示細胞として知られており、自然免疫と獲得免疫の両方で中心的な役割を果たす免疫細胞です。
Ichikawa, R., et al. Bile acids induce monocyte differentiation toward interleukin‐12 hypo‐producing dendritic cells via a TGR5‐dependent pathway. Immunology, 2012;136(2): 153-162.
このように、胆汁酸は胆汁酸特異的な受容体に結合し、 糖代謝 、脂質、エネルギー代謝 、癌 、タウリン生合成 、免疫などもコントロールしています。
胆汁酸は、肥満、脂肪肝、糖尿病などのメタボの予防、ダイエットをする上でも大切です。
クミン、コリアンダー、アジョワン、フェンネル、ミントなどのハーブは、胆汁酸の量を増やします。
Platel, K., et al. Stimulatory influence of select spices on bile secretion in rats. Nutrition Research, 2000;20(10): 1493-1503.
※胆汁酸の基本的なしくみ「腸肝循環」については、スライドにまとめました。
腸肝循環とは?・・・・生体物質やクスリなどが胆汁とともに胆管を経て十二指腸に分泌され、腸管から再び吸収されて門脈を経て肝臓に戻るサイクルのこと
●まとめ
消化酵素(胆汁酸)は、免疫、糖や脂質の代謝、甲状腺にも大切。血糖やダイエットにも影響。
ビタミンD受容体とも深い関わり。
😀コレステロールは、胆汁酸の材料。
低すぎるコレステロールは✖️。
よく噛んで、早く寝る。肝臓の血流を良くする。ストレスを減らすことからはじめてみましょう。
胆汁酸は、SIBO、さらにはリーキーガットの原因にも。
胆汁酸は、腸の抗菌もしてくれています。
胆汁酸には、タウリン、グリシンも大切。
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奥平智之
日本栄養精神医学研究会 会長
医療法人 山口病院 副院長
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