【キズを治すために必要な栄養素は?】
キズが治るの過程は、①炎症期、②増殖期、③成熟期に分類されます。
それぞれの過程において、様々な栄養素が関与しています。
1)エネルギー
エネルギーは、体の保持や活動のために欠かせません。
摂取するエネルギーが足りないと、代謝や活動性が低下してしまいます。
エネルギー不足が続くと、体たんぱくの分解が進み、皮膚組織の再生能力が悪化します。
2)たんぱく質、必須アミノ酸
たんぱく質は、筋肉や血液などを構成しています。
中でもコラーゲンは、体たんぱくの約25%を占め、結合組織、骨、皮膚にたくさん含まれています。
キズが治る過程で、白血球機能の改善、線維芽細胞の増殖・機能維持、組織の新生などに、たんぱく代謝が必要です
血中のたんぱく質が少なくなり、浸透圧が低下して浮腫を起こすと、組織の脆弱性や創傷治癒遅延の原因となります。
高齢者や全身状態の悪化した人は、エネルギー摂取が炭水化物に偏る傾向にあり、主食は摂ってもおかずは十分に摂らないため、たんぱく食品の摂取が減少するので注意が必要です。
3)脂質、必須脂肪酸
脂質は、膜の構成成分です。そして、皮膚の統合性維持や組織の維持などの働きがあります。
また脂質は、質量あたりのエネルギーが高く、トリグリセライドの分解は侵襲時でも保たれているため、効率のよいエネルギー源としても重要です。
低栄養時には、中性脂肪、総コレステロールが低値を示します。
必須脂肪酸の欠乏は、皮膚の乾燥や落屑その他の皮膚病変、免疫機能の低下をきたし、創傷治癒遅延を起こします。
4)ビタミン
体の調子を整え、皮膚や粘膜の保護に大切です。
代謝反応の補因子や補酵素などとして働きます。
体内では合成できず、体外から摂取する必要があるため、絶食が持続した場合は欠乏するので補給が必要です。
特にビタミンCは、肉芽のコラーゲンの合成に必要で、アミノ酸代謝や鉄の吸収に関与しています。
ビタミンCは腸内細菌では合成できないビタミンであり、欠乏すると創傷治癒が遅延します。
水溶性ビタミンの半減期は、数時間から1週間以内であり、侵襲時や低栄養状態では早期に欠乏する危険があります。
5)ミネラル(電解質)
骨や歯の構成成分であると同時に、体の各機能を調整しています。
鉄が不足し貧血になると、組織の酸素分圧が低下して、組織の代謝障害、脆弱化を助長します。
ミネラルの欠乏は、コラーゲンの生成を低下させ、キズの治りが遅くなります。
カルシウムの不足は、コラーゲンの架橋形成不全にもつながります。
6)微量栄養素
骨や歯の構成成分、消化液や腸液中にも含まれる成分で体の各機能を調整しています。
経口摂取ができていれば欠乏することは稀です。
亜鉛は褥瘡の治癒過程で、線維芽細胞がコラーゲンを生成するときに必要で、たんぱく質の合成や各種酵素の代謝に関与しています。
亜鉛欠乏は、創傷治癒の遅延や味覚異常、食欲低下につながり、口内炎、舌炎、皮膚症状の原因となります。
7)水分
体内の水分量は、年齢、性別、体脂肪量により異なり、一般に成人男性で約60%、女性では約50%を占めています。
水分不足は、皮膚や口腔粘膜、舌の乾燥にもつながります。
鈴木文: 褥瘡と栄養.昭和学士会誌.74(2) 2014
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