• 奥平智之

産後のうつや情動不安定と鉄欠乏

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産後の鉄欠乏(低フェリチン)は、産後うつ病の原因になる可能性があります(Wassef, A.,et al. Anemia and depletion of iron stores as risk factors for postpartum depression: a literature review. Journal of Psychosomatic Obstetrics & Gynecology, 2019; 40(1): 19-28.)。

鉄欠乏は、情動不安定、神経過敏、無気力、疲労、抑うつ気分、認知の変化の原因となります。母親の感情や認知の変化は、母子関係にマイナスになり、幼児の行動や発達に影響を与える可能性があります。(Murray-Kolb, L. E., et al. Iron deficiency and child and maternal health. The American journal of clinical nutrition, 2009; 89(3): 946S-950S.)

産後32週間でうつ病となる人は、そうでない人よりも分娩後のフェリチンは低値でした(15.4±12.7μg/ L対21.6±13.5μg/ L、P = 0.002)(Albacar, G., et al. An association between plasma ferritin concentrations measured 48 h after delivery and postpartum depression. Journal of affective disorders, 2011: 131(1-3): 136-142. )。

鉄欠乏は、脳のミエリン形成とモノアミン代謝の障害を引き起こします。脳内の神経伝達物質であるグルタミン酸とGABAの恒常性は、脳の鉄の状態の変化によって変わってきます。鉄欠乏のラットでは脳のグルタミン酸レベルが上昇します(Jorgenson, L. A., et al. Perinatal iron deficiency alters apical dendritic growth in hippocampal CA1 pyramidal neurons. Developmental neuroscience, 2003; 25(6): 412-420.)。

また、鉄は、ドーパミン産生に重要な酵素であるチロシンヒドロキシラーゼの補因子です。この酵素はチロシンをDOPA(ドーパミン前駆物質)にします

鉄欠乏は、記憶力・学習能力・運動能力の障害だけでなく、情動の不安定さも引き起こします。


脳のエネルギー代謝は、脳の鉄欠乏よっても低下します。例えば、動物実験では、ヘムタンパク質であるチトクロームcオキシダーゼ(ミトコンドリアの電子伝達系の酵素)は出生前の鉄欠乏症で減少し、海馬の代謝機能の障害を引き起こすことがわかっています(deUngria, M., et al. Perinatal Iron Deficiency Decreases Cytochrome c Oxidase (CytOx) Activity in Selected Regions of Neonatal Rat Brain. Obstetrical & Gynecological Survey, 2001; 56(4): 191-193.)。

鉄はミトコンドリアにおけるエネルギー産生の要となるミネラルです。興奮性グルタミン酸作動性神経伝達は、脳の総エネルギー消費の80%以上を占めます(Attwell D, et al. An energy budget for signaling in the grey matter of the brain. J Cereb Blood Flow Metab. 2001;21:1133–1145.)。


そのため、周産期の鉄欠乏症では脳のエネルギー代謝が不十分なため、グルタミン酸を介した神経伝達が低下して、細胞内のグルタミン酸レベルが高くなると考えられています(Rao, R., et al. Perinatal iron deficiency alters the neurochemical profile of the developing rat hippocampus. The Journal of nutrition, 2003; 133(10), 3215-3221.)。

また、亜鉛欠乏も怒りや抑うつにつながる可能性があります(Sawada, T., et al. Effect of zinc supplementation on mood states in young women: a pilot study. European journal of clinical nutrition, 2010; 64(3): 331-333.)。

まとめ:炎症がなければ、ヘモグロビンの数値に関係なく、妊娠予定もしくは妊娠中のすべての女性は鉄の補給を考慮すべきです。



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