top of page

「タンパク質を増やしているのに不調が続く理由」―脳に届かない栄養の話   (食と心)日本栄養精神医学会

外来で、栄養に気をつけているのに気分が上がらない、という患者に出会うことがあります。



そのとき「量は足りているのに、なぜ効かないのか」と感じたことはないでしょうか。


ここで一つの視点が重要になります。

それは「体に入った栄養が、脳まで届いているか」という問題です。


脳には血液脳関門という“関所”があります。

どんな栄養でも自由に通れるわけではありません。


例えるなら、人気のラーメン店の行列です。

トリプトファンはその店に入りたい客ですが、同じ列にはBCAAという別の客も並んでいます。

しかもBCAAは数が多く、列を占領しやすい。


するとどうなるか。

トリプトファンはなかなか順番が回ってこない。

つまり、脳に入りにくくなります。


この状態では、セロトニンの材料は十分に摂っているのに、

脳内では不足しているように振る舞います。


ではどうするか。


ここで鍵になるのがインスリンです。

適切な炭水化物を摂ると、インスリンが分泌され、BCAAは筋肉へ移動します。

すると行列が整理され、トリプトファンが通りやすくなる。


つまり

「何をどれだけ食べるか」だけでなく

「どう組み合わせるか」が重要になります。


この視点が抜けると、

高タンパク食を続けているのに気分が安定しない、という状況が起こり得ます。


さらに、インスリンの脳内における役割はそれだけにとどまりません。

近年、アルツハイマー型認知症は「第3の糖尿病」とも呼ばれ、脳内のインスリンシグナル伝達の障害が、アミロイドβの蓄積やタウ蛋白のリン酸化に深く関与していることが示唆されています。

末梢のインスリン抵抗性だけでなく、中枢神経系における代謝異常が認知機能低下の独立したリスク因子となり得るという視点は、今後の予防医学において極めて重要です。

私たち医療従事者は、こうした生化学的な相関と因果関係を正確に理解した上で、日々の臨床実践に落とし込む必要があります。画像にも示されている「5Asモデル(Assess: 評価, Advise: 助言, Agree: 合意, Assist: 支援, Arrange: 手配)」は、患者さんの食行動変容を促すための優れたカウンセリングのフレームワークとなります。



さらにもう一つ重要な点があります。

腸の状態です。


腸は単なる消化器ではなく、外界との境界です。

ここがゆるむと、細菌由来の成分が体内に入り、炎症を引き起こす可能性があります。


これは、家の中で小さな火事が起きて、煙が全部屋に広がるようなものです。

火元は腸でも、影響は脳に及びます。


その結果、

だるさ、集中力低下、不安感といった症状として現れることがあります。


ここまでをまとめると


・栄養は「摂取量」だけでなく「脳への到達」が重要

・アミノ酸は競合する

・インスリンはその交通整理役

・腸の状態は炎症を介して脳に影響する


これらはすべてつながっています。


ただし注意点があります。

これらの多くは関連が示されている段階の知見も含まれ、個人差が大きい領域です。

単純な因果関係として断定することはできません。


それでも、臨床では確実にヒントになります。


「なぜ効かないのか」を考えるとき、

薬だけでなく、食事と代謝の流れを一度立ち止まって見直す。


その積み重ねが、診療の精度を変えていきます。


メンタルヘルスは食事から。


この言葉は、がんばりや理想論ではなく、

日々の臨床で検証していくべき具体的な視点です。


食と心のつながりを理解する医療者が増えれば、

見逃されている症例は確実に減っていきます。



コメント


鉄欠乏女子(テケジョ)��は奥平智之が命名

© 2014―2025 by Dr. Tomoyuki Okudaira

  • アマゾン - ホワイト丸
  • Facebook Clean Grey
  • ツイッター - ホワイト丸
  • ホワイトYouTubeのアイコ��ン
  • ホワイトInstagramのアイコン
bottom of page